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『浪華悲歌 /なにわエレジー』偶有性と女優の演技

監督:溝口健二 脚本:依田義賢 出演:山田五十鈴 1936年 物語を語る中に一人の女性の様々な側面を描き出したシナリオと、気弱そうに見える女性がタバコを吐き捨てる「不良少女」になるまでを演じた山田五十鈴が、まず最初に気づくこの映画の魅力だ。 山田演じるアヤコは貧しく荒んだ家庭の娘であり、同年代の恋人がいる若い女性だ。一方で豪華なアパートに囲われた愛人であり、男を騙す悪女でもある。伝統的な着物姿からモダン...

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『Love Letter』客観描写による主観の表現

監督/脚本:岩井俊二 出演:中山美穂・豊川悦司・酒井美紀・柏原崇 1995年 郷愁そのもののような映画。光や雪の白さ、甘美な旋律、過去の追想などによって郷愁という感情を映画という形式に落とし込み『ラブレター』と名づけた、といった感じだ。 横たわった中山美穂の顔や雪を払う手など、極端なクローズアップが連続し、街に降りていく彼女を画面の片隅に小さく捉えた長いロングショットがそれに続く。映画は始まりから映像も音楽...

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『君の名は。』日本の美意識が反映された清新なアニメ映画

監督/脚本:新海誠 2016年 心の琴線に触れる映画だ。完成度は低く、作品の綻びは目に見えて大きいのに感情を揺り動かされる。 広大な空を描き続ける描写が人の存在をちっぽけにし、緻密に描かれた作品世界は想起された過去のように美しい。その中で偶然と奇跡によって紡がれる人の物語は甘く、感傷的で、憧憬を掻き立てる。 映画は空の絵から始まる。冒頭、彗星を追う視点が空を描き、その下にある地表を写す。ここからではもち...

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『東京の女』優れた表現と空虚な物語

監督:小津安二郎 出演:岡田嘉子・江川宇礼雄・田中絹代 1933年壁一面の時計が物語上の意味を持たず、あくまで表現としての魅力を発露する。 ほぼテクニックだけで出来ているような映画。内容的には無意味な悲劇だが、語り口が簡潔明瞭で時間も47分間しかないため決して観客を退屈させないし、逆にそのテクニカルな表現の面白さを堪能させてくれる。 二人暮らしの仲のいい姉弟がいて、姉のちか子がタイピストをして生計を立て、弟...

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『噂の娘』 洗練された演出と悲劇

監督/脚本:成瀬巳喜男 出演:千葉早智子・梅園龍子 1935年 小さな一家族の悲劇を描いた内容がどの程度観客の興味を引くかはともかく、表現においては熟達した技巧が技巧そのものを意識させない自然さを獲得していて、作品の背後に作り手の存在を感じることなく観客は安心して内容に集中できる。この時の成瀬はすでに日本映画を代表する監督の一人になっていると言っていいだろう。 床屋から見る老舗の酒屋から始まり、その酒屋を...

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『夜ごとの夢』 栗島すみ子の演技と成瀬巳喜男の演出

監督/原作:成瀬巳喜男 脚本:池田忠雄 出演:栗島すみ子 1933年 ヒロインの個性的なキャラクターとそれを表現した栗島すみ子の演技、そして成瀬巳喜男の技巧的で力強い演出がこの映画の魅力だ。特にその自己主張の激しい演出は当時の観客の記憶に否応無く成瀬の名を刻みつけたに違いない。若さと意欲を感じさせ、多少の稚拙さはあっても、円熟期の慣れに伴う退廃は全くない。この時期が成瀬の最初のピークだろう。当時のキネマ旬...

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『秀子の車掌さん』「爽かなソーダ水みたいな作品」

監督 成瀬巳喜男 1941年 当時のアイドル映画と言っていいだろう。成瀬巳喜男は仕事を選ばない人だったらしい。ただ普通のアイドル映画とは違う。主演は17歳にしてすでに57本の出演作がある後の大女優、高峰秀子だ。現在から遡って見ると成瀬・高峰の初コンビとして却って注目してしまう。しかし映画はほとんど内容らしい内容もなく、高峰の魅力に依存するわけでもない。非常に淡白な作品だ。 田舎の路線バスの車掌であるおこま...

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『ゴッドファーザー』 巧緻を極めた表現と卓越した着想

監督 フランシス・フォード・コッポラ 1972年 アメリカ映画 設定・物語・描写に通底するリアリズムと多彩な対照表現が魅力的だ。また、個々の構成要素がそれぞれ堅実で優れていて、ほとんど欠点らしい欠点がない。にも関わらず、この映画はその技巧を観客に意識させない。斬新さや突出した特徴で観客を驚嘆させることより、抑制された表現によって醸成するリアリティと、頻出する作為的な対照描写に与える自然さの方がずっと重...

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『悪い奴ほどよく眠る』 部分の魅力と低い完成度

監督 黒澤明 1960年 内容的には同時代の現実的問題を取り上げた映画だ。題材そのものがリアルな現実性を要求している。それに応えて描写はリアリズムを徹底する。しかし描かれる人物や出来事は極端に誇張されていて非現実的かつドラマチックだ。リアルな描写と誇張された人物やストーリーが齟齬を起こしてアンバランスで奇妙な印象を与える。復讐劇を語る物語や派手な演出、リズミカルな編集によって面白い劇映画になっているが...

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『天国と地獄』 悪の普遍性を描いた暗く重い傑作

監督 黒澤明 1963年 非常に重量感のある映画だ。 人間心理の深奥にある暗く重い情念を描いた内容、必要な情報を大量に入れ込みながらもスリリングに展開する脚本、静的な室内シーンと動的な列車シーンなど、場面によって異なる多彩な演出とその鮮やかな対照、背景音楽を抑制し現実音を利用する音の演出等々。これほど贅沢な映画はちょっと他にないかもしれない。 もし映画というものを知らない人に映画とはいかなるものかを紹...

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『M』 悪とその処遇が炙り出す人と社会の矛盾

監督 フリッツ・ラング 1931年 ドイツ映画 この映画が描くのはあくまで一人の特異な人物と彼に対する様々な人間の反応であり、公私二つの性質の異なる集団がいかにして犯人に辿り着くかの過程だ。サスペンスやスリラーといった犯罪映画定番の要素を半ば素通りして物事の現実的なプロセスと人間そのものに執着する描写が重厚な印象を与える。 被害者の母親の詳細な描写、市民の素朴で些か無責任な反応、マスメディアの報道、警...

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『飾窓の女』 フリッツ・ラングの描く虚構としての世界

監督 フリッツ・ラング 1944年 アメリカ映画 夢の描き方が実にうまい。俗に言う夢オチ映画だが、その種の映画の多くがラストになって唐突にそれまでの展開を無効にして観客を白けさせるのに対して『飾窓の女』はまったく異なる。真逆だ。 『飾窓の女』ではそれまで現実として扱われていた描写と展開が、ラストに至って虚構としてこそより相応しいものであったことを観客が驚きとともに発見する。通常の夢オチ映画と違って夢と...

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ぱこぺら

Author:ぱこぺら
批評なので基本的にネタバレです。できるだけ下記の方針で書きます

・作品外の周辺情報を考慮せず作品内の表現に基づいて評価する
・歴史的な読み、評価から離れて現在の視点から論じる

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撮影監督の映画批評

無意識の感情移入など専門的な視点から語られる映画評。とても個性的。


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