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バック・トゥ・ザ・フューチャー

監督 ロバート・ゼメキス 1985年 アメリカ映画

 最初から最後までとにかく楽しいコメディ映画。娯楽と銘打った映画が実際はちっとも面白くないことも多く、「娯楽映画」と聞くと「またどうせつまらない映画だろう」などと考えてしまいがちだが、この映画は言葉本来の意味での娯楽映画だ。

バック・トゥ・ザ・フューチャー 冒頭の日常描写からもう楽しい。描かれる世界は現実的な範囲で理想化されており、まさに痒い所に手が届くといった感じだ。主人公はハンサムで美人の彼女もいるのだが、あくまで普通の少年のように描かれる。遅刻しそうな彼はスケートボードに乗って行きずりの車に掴まりつつ学校に向かう。ダンス教室のお姉さんたちが手を振ってくれる。こんな素敵な日常があるだろうか? その上で情けない父、堅苦しい母、代々落ちこぼれの家系、ビフの存在、彼に壊される車などネガティブな面が誇張され軽く笑える要素とともに描かれる。
 これから起こる冒険のために日常はつまらないものとして描かれる必要があるだろうが、ネガティブな要素はコミカルに、それ以外の面は魅力的に、しかしそれをありふれた日常として提示する。更にその中に必要な説明、ギャグの種、伏線などの数々が大量に仕込まれていて無駄がなく、かつ、それらが観客をまったく退屈させることなく、笑わせながら行われる。脚本が驚異的にうまい。
 また、1985年と1955年、双方の描写があることで同じ場所の風景や人々の差異が対照し合い、普通なら何ということのないその一つ一つの要素が実に魅力的な描写に変身している。魔法のような効果だ。

 全編にはギャグが散りばめられていて、それがまた一々可笑しい。例を挙げる必要もないだろうし、挙げだすとキリがない。映画史上最高の喜劇映画の一つと言っていいのではないか? ドクがカメラに向かって「バック・トゥ・ザ・フューチャー!」と決め台詞を言うのも楽しいし、現代においては「ジゴワット」も追加の笑いどころだ。

 一方で、デフォルメされた世界ではあってもきちんとその世界なりのリアリティが演出されていて、決して観客を白けさせたりしない。デロリアンが消失すると落ちたナンバープレートをマーフィに拾わせてそれが熱を持っていることを表したり、1分後戻ってきたデロリアンが氷まみれでドクが低温火傷しそうになったり、笑いとともにあり得ない出来事のあり得た時の影響を描いていて、作品世界のリアリティはきちんと演出してくれる。
 そして他の部分がどれだけ出鱈目であっても、SFらしく、タイムトラベルに1.21ジゴワットの電力が必要であると条件付けると、そこは決してごまかさない。その条件を1955年の状況下で可能になるように理屈を積み上げてクリアしてみせ、虚構のリアリズムをしっかり維持してくる。だからこそ観客はこの世界が観客の住む世界とは異なっていてもひとつの現実として受け止め、コミカルな部分にも心から笑える。
 細部の描写もよくて、ジョージがしどろもどろになりながらダンスパーティーに誘った段階でロレインの反応が決して悪くないものだったり、出鱈目なようでいて展開に無理がない。

 危機は写真から人物の姿が消えるといういかにもあり得なさそうなコミカルな要素とともに描かれる。少し苦しいが観客は笑いとともにこれをこの世界の現実として受け入れる準備はできている。危機は次々と演出され、ロレインはマーフィに恋をしてしまうし、ジョージはビフと対決する羽目になり、手を傷つけたギタリストは演奏を中止しようとする。それらを何とか乗り切ると次はタイムトラベルの危機だ。手製のコンセントは引っかかって抜けてしまうし、エンジンはかからない。更に未来のドクも助けなければならない。ハラハラドキドキの連続だ。
 危機を乗り越える痛快さもいい。マーフィは得意のスケート・ボードで力では勝てないビフをやり込め、1985年では全く評価されなかったギターも1955年では絶賛される。終始情けなかったジョージはロレインを守るためについに本当の力を発揮してビフをやっつけ、彼女をものにして皆の注目の的だ。予想通りの展開がいい。観客はその類型的な展開をこそ待ち望んでいたのだから。娯楽映画だからと言って予想を裏切るばかりが能ではないのだ。

バック・トゥ・ザ・フューチャー ラストは特にいい。
 ある出来事を間に挟み最初と最後が同じ日常のようでいて何かが変わっているというのがよい脚本だとしたら、これほど素晴らしい脚本もないだろう。過去から戻ってみると同じ日常でありながら全てがよくなっているではないか! ビフは使用人に成り下がっていい気味だし、欲しかったトヨタまである。
 さらにこの映画は次の冒険まで用意してくれている。楽しい映画のハッピーエンドにはなぜか悲しい別れが用意されていたり、冒険が終わり退屈な日常に戻ることが幸せなこととされていたり、ちょっとした虚しさを伴うことが多い。しかしこの映画はそんなつまらいことはしない。進化したデロリアンですぐさま未来の冒険に旅立つのだ。娯楽作品として最高のラストシーンだ。

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