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『カメラを止めるな!』「ポン!」と視点の映画

監督/脚本/編集:上田慎一郎 原案:劇団PEACE「GHOST IN THE BOX!」 2018年

 この映画は構成が非常に面白い。最初「あぁ、この程度なんだな」と安易な予断を誘い観客を油断させておいて、後半加速度的に魅力を倍増させてその想定を軽々と飛び越えていく。

 序盤は題材、ストーリー、演技など何もかもが陳腐極まりないが、時間と空間に嘘がない1シーン1カットの威力で観客の関心を辛うじて繋ぎ止め続ける。
カメラを止めるな! 物語に回収されない不要で不気味な描写
  物語に回収されない不要で不気味な描写
 その内にあまり見るべきところがないせいか細部の微妙な面白さが際立ってくる。変な間があったり、不可解なカメラワーク、全く意味をなさない描写の挿入、演技やセリフに表れる唐突なわざとらしさなど。実に変な映画なのだ。声に出して笑うほどではないがアマチュアの自主制作映画のパロディのような滑稽さを備えている。いや、緊迫した場面での「ポン!」には思わず爆笑してしまうかもしれない。

 虚構、虚構内虚構、虚構内虚構内虚構と、何度もリアリティの水準を書き換えるところにも可笑しみとともに微妙な映画的魅力がある。

カメラを止めるな! 登場人物たちの不可解な視線の誘導
  登場人物たちの不可解な視線の誘導
 ただ、序盤はあまり映画を見ない観客にはピンと来ないだろう。その楽屋落ち的な魅力の微妙さはコメディであることに気づかないことも十分あり得そうなレベルで、一見いかにも単なる駄作のような顔を見せ続ける。

 1ヶ月時間を巻き戻した中盤では、登場人物たちの喜劇的なキャラクターが描かれていき、コメディらしい展開となって、徐々に駄作から凡作に成り上がってくる。まだ観客の印象としては平凡だ。

 しかし映画は終盤に至って、急激にその魅力を爆発させる。それまで我慢して積み重ねられてきた一見凡庸な展開と描写が、その意味をことごとく覆していくクライマックスは圧巻だ。

カメラを止めるな!「カメラマン変わった!?」
  「カメラマン変わった!?」
 舞台裏から見る場違いな「ポン!」、芝居にかこつけて主演の二人を本音で罵倒する監督など、前半『One Cut OF The Dead』を見ていた時点では大げさで下手くそなだけだったはずの演技が本物の感情表現となり、間の抜けたやり取りはアドリブのリアリティと緊迫感を獲得する。ゾンビたちは酔っ払ったり、腹を下しながらの熱演、監督の奥さんは台本を無視して一人でゾンビを全滅させる大活躍を見せ、最後は何故か自分がゾンビに変身してしまう。
 ここまで来ると前半が陳腐であったなどとはこの映画は決して言わせない。それは事後的に意味を獲得し、陳腐どころか今やこの映画の重要な面白さの一部を成しているではないか! 同じ場面の再描写がもたらす異化効果が最大化されて、そのあまりの懸隔が観客の爆笑を引き出す。
 構成が桁外れに巧い。その着想はあまりに優れていて、この監督の次回作がなんだか心配になってくるほどだ。繊細で愛情あふれる人物描写、サブ・モチーフの映画制作者の悲哀や取って付けたような親子愛なども隙なく魅力的で、日本の娯楽映画を代表する傑作の一つとなっている。

カメラを止めるな!「親父にもぶたれたことないんだ!」
  「親父にもぶたれたことないんだ!」
 駄作である『One Cut OF The Dead』とメタレベルの『One Cut OF The Dead』の対照がこの映画の最も面白いところだが、考えてみるとこれはちょっと興味深い。『カメラを止めるな!』を見終わった後、もう一度序盤の『One Cut OF The Dead』を見てみるとおそらく実に面白い映画になっていることだろう。これは、同一の映画が観客の側の変化でまったく違った映画になるということの実践例だ。

 映画は鑑賞されることで初めて映画になるということ、同じ観客でもその状態によって異なる鑑賞体験をすること、ある人にとっての傑作が別のある人にとっての駄作であったりすることなどを実感として理解させてくれる。そしてそれらの効果をもたらしているのが視点であることも帰納的に分かる。

 実際、この映画は視点についての映画と言えるだろう。映画内映画で観客に見るという行為を何度も客観視させ、全編カメラとそれを撮る人、カメラで撮られた映像とそれを見る人などを描き続ける。『カメラを止めるな!』はカメラ、すなわち視点の映画なのだ。楽しい娯楽映画でありつつ、そこから映画が表現され鑑賞されるところの視点について示唆を与えてくれる、とても考えさせられる映画であったりもするのだ。そしてやはり「ポン!」が最高に面白い。

  多彩なポン!の数々
カメラを止めるな! ポン!の初披露カメラを止めるな! ポン!の実践
カメラを止めるな! ポン!の学習カメラを止めるな! ポン!の練習


















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