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『ベティ・ブープ:ベティの笑へ笑へ』現実への哄笑

監督 デイブ・フライシャー アメリカ映画 1934年 ( 原題『BETTY BOOP HA! HA! HA!』)

 同年の日本映画『隣の八重ちゃん』に登場人物がこの映画を見る場面が出てくる。また、筒井康隆はこの映画に触発されて『虚航船団』を書いたそうだ。

ベティの笑へ笑へ:絵の中に入っていくベティとココ 『ベティ・ブープ』シリーズの一本で7分程の小品。
 実写とアニメが合成され、それぞれが表す現実の世界と虚構の世界を登場人物たちが何度も越境し、最後には虚構が現実を侵食してしまう。

 マックス・フライシャーらしき人物がベティの絵を描いてフレームアウトするとインク瓶の中から道化師ココが現れて、フライシャーが置いていったお菓子を食べる。するとどうやら虫歯が痛み出したらしい。ひどい痛がりようだ。そこにベティが絵の中から飛び出してきて、ココのために歯医者の治療室を絵に描いて、そこにココを連れて入って治療しようとする。しかしベティが抜こうとしているのは虫歯でなく健康な歯だ。全く躊躇がない。更にうまく歯が抜けないので、笑気ガスを思い切り吸わせる。多幸感いっぱいのココが笑いだし、漏れたガスでベティも笑いだし、更に絵の中から現実の世界へ漏れ出たガスで部屋の時計やタイプライター、果ては外のポストや自動車、道行く人々などあらゆる存在が笑い出す。なかなか狂った映画だ。ヘイズ・コードを完全に馬鹿にしている。そしてその騒乱をよそに二人はさっさとインク瓶の中へ逃げ去ってしまう。

 理性や社会の良識を一顧だにしない振り切れた姿勢が気持ちいい。人畜無害なディズニーより大人にとっては毒と狂気を持ったフライシャーの方がずっと面白いだろう。安全に管理された虚構より現実を侵食する虚構の方がはるかにスリリングで、表現としても強靭だ。

ベティの笑へ笑へ:絵の中から漏れ出た笑気ガスで笑い出す人々 世界を表現の対象としている点で『ベティの笑へ笑へ』は『カリガリ博士』の子孫と言っていいだろう。ここでは作品世界は単なる背景でもなければ、登場人物が活躍するための舞台を提供しているだけでもない。世界は登場人物以上に重要な一つの存在だ。現実:実写と虚構:アニメが対置されることで、世界そのものが我々観客の意識の視野に現れる。二つの世界は相互に越境され、影響し合い、変容する。作品世界は無色透明ではなく、絶対的でもない。
 更に『カリガリ博士』では分裂した世界はそれぞれ主観と客観に着地するが、この作品は狂気を狂気として定位することさえ放棄して笑い飛ばして終わってしまう。映画が終わっても世界はどこにも着地することなく浮遊している。


 単純にシュールで面白い作品という言い方もできるが、映画にとっては更に重要な作品だ。映画が世界の表現という点において、ここで確かに新たな一歩を踏み出しているのだから。

 ただ、子供に見せるのはやはりディズニーかジブリにしておこう。


   


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