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『ゲームの規則』重厚な内容の軽快な喜劇映画

監督 ジャン・ルノワール 1939年 フランス映画

『ゲームの規則』という表題は非常にアイロニカルだ。この映画は登場人物の言葉と行動がルールを逸脱していく描写を積み重ねていき、それが上流階級の、とか、この映画の、という限定に留まらず、我々観客を含めた全ての人間が生きているところの ”ゲーム” そのものの規則を逆説的に明らかにしていく。
 そしてその規則を外れたところにこそ、人間の本性があるのだと語りかける……。いや、そう受け取るかどうかは観客次第ということでいいのだろう…たぶん…。

『ゲームの規則』クリスティーヌと彼女を巡る3人の男性
     クリスティーヌと彼女を巡る3人の男性
 男と女、貴族や企業家、軍人、猟場番人、料理人、密猟者など、多種多様な人々が登場し、最初から最後まで誰もが口々に喋りまくる。全編セリフだらけだ。が、実は話す内容には案外意味がない。アナウンサーの語る大西洋横断の「偉業」は当人のアンドレには何の意味も持たないし、アンドレの語る「失意」は彼以外の誰にも意味がない。終盤の「不幸な事故」は事実に背反し、男と女の語る愛はころころと相手を取り替え、どこにも実態がない。その他頻出するダイアローグの殆どは文字通りに無意味だ。

 言葉に裏切られ続ける行為も勿論、言葉によって与えられる意味を逸脱していて、行為が語られた言葉をことごとく嘘に変えてしまう。行為は正直で言葉は虚飾に過ぎないようだ、その描写は人間の文化的な側面をどんどん剥ぎ取っていき、我々を動物に還元していく。

 クリスティーヌは人々の前でアンドレとの仲に疚しいところがないことを宣言し、そのことで夫の名誉も守るのだが、すぐにアンドレに愛を告白してしまうし、更にまた気が変わって今度はオクターブと駆け落ちしようとする。オクターブは終始、親身になって彼らの相談に乗っていたはずが突然、クリスティーヌを口説き、アンドレに見つかるとまたまた一転、急遽、彼にクリスティーヌと駆け落ちするよう促す。皆、一貫性のないでたらめな言動で滅茶苦茶なのだが、こういった急激な心理の変化は実は誰しも経験のあることで、奇妙にリアリティがあるので困ってしまう。

『ゲームの規則』屋敷内のから騒ぎ
  人とカメラが縦横無尽に動き回る屋敷内のから騒ぎ
 こうして人間を人間たらしめる、と我々が勝手に思っている高尚な倫理や知性はきれいに消え去っていき、残るのは動物的な欲求と状況に対する反射だけだ。この映画を見ると楽しく笑いながらやるせない気分になるという複雑な心理が体験できるだろう。

 その残念な生の実態は、しかし、喜怒哀楽までは失っておらず、それが救いでもあり、この映画を可笑しくて悲しい喜劇にしている。この内容を重厚にシリアスに描かれていたら観客はあまりに悲しく身につまされ過ぎて見ていられなかったろう。

 実際、興味深く、捉え方によっては深刻な内容が、実に軽快に面白く描出されていく。男と女が互いに相手を入れ替えていきながら、その場凌ぎではあるが真摯でもある愛を語る様は滑稽でありつつ、リアルであることを認めざるを得ないし、鴨や兎を楽しみながら殺していく登場人物たちの野蛮さや、それを実際に行わせるこの映画自体の持つ残忍さには驚かされる。

 しかし、彼らはキリスト教の影響下にあるのだろうが「生きて動いているものは、すべておまえたちの食糧とするがよい」には喜んで従えても「姦淫するなかれ」には従えないようだ。彼らの愛は倫理や美徳から程遠く、滑稽な実態を示して観客を笑わせつつ、しかし浮気相手を殺そうとする程、真剣なものでもある。

『ゲームの規則』美しい屋外シーン
 映画の流れの上でもアクセントとなっている美しい屋外シーン
 描写においては、その右往左往が文字通り視覚化されて、カメラと人物が邸の中を縦横無尽に動き回る。1ショットで部屋から部屋へ、トラブルが手前から奥へ去り別のトラブルが奥から手前にやってくる。自動演奏は序盤のオルゴールから大幅にスケールアップして、人々のバカバカしくも懸命な騒乱を豪華にコミカルに彩る。まさに描写のクライマックスだ。そうかと思うとそのさなか唐突に現れる屋外シーンは白い屋内の混沌とは対照的に黒く、静かで、そのシンメトリーな構図、引きのショットの美しさにハッとさせられる。

 楽しくも悲しくもあり、失意と希望、怒りと喜びが交錯する、その一夜のお祭り騒ぎはアンドレの死をもって幕を閉じ、映画は終わる。獣のようだった人々が最後に虚飾を取り戻している様はせめてもの慰めだろうか? 深刻な内容を含みつつ軽快で楽しい、大人のための喜劇映画だ。

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