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『殺しの烙印』特異な感性とキッチュ

監督 鈴木清順 1967年

『殺しの烙印』雨に打たれる真理アンヌ『殺しの烙印』米の炊ける匂いを嗅ぐ宍戸錠

『殺しの烙印』は一般的にはとんでもない駄作と見做されている一方、一部では熱狂的に支持されてもいる。なぜそんなことになっているかは、実際に見てみれば一目瞭然、とても ”変な” 映画なのだ。作品世界や人物の設定は荒唐無稽で、物語も破綻しているのだが、被写体の造形、フレーミングと構図、照明の作り出す光と影の演出などが非常に魅力的でもある。当時の日活の社長はこの映画を見て「わからない映画を作ってもらっては困る」と激怒したらしい。見る目がないと言うより、極めて常識的な感性と言うべきだろう。

 いきなりの銃声とシュールな歌謡曲?で始まるオープニング、主人公の宍戸錠が乗り込んだ車は右向きに去り、次のショットで左向きに走る。主人公は店に着いたら開口一番「飯を炊けって言ってるんだ」だ。
 ここまででこの映画の優れたところを探すと当時の東京の風景ぐらいしか見つからないが、おかしなところはいくらでも出てくる。調子はずれの歌、流れを無視したカット繋ぎ、場違いなセリフ、何もかもが変で、いい言葉で言うと個性的だ。そしてそれがこの映画の魅力なのだ。キッチュを愛せるかどうかで観客を振り分けてしまう。

『殺しの烙印』唐突に表れる前衛的またはキッチュな表現 殺し屋No.1だの、組織だのが存在しているらしい作品世界はリアリティ皆無で、主人公は米の炊ける匂いに執着する特殊性癖の持ち主だし、あらぬ方向を向いた拳銃から発射された弾はなぜか命中し、腹を撃たれ倒れてもそれが主人公であれば医者にかからず自然治癒する…。見事なまでのB級映画っぷりだ。これが『ルパン三世』であればまだしも、実写映画としては全くリアリティを維持できていない。大方の観客にとっては文句なしの駄作だ。しかし、少なくとも類型的ではないし、そのあからさまな虚構性が、好きな人には堪らない魅力だろう。

 そして、それらの特徴はそれとして、間違いなく優れているのは被写体の造形とそれを彩る照明や撮影だ。それらによって作られた画が美しい。赤坂のキャバレー「ミカド」を始めとする1967年当時の東京の風景、部屋の奥に見える螺旋階段、壁を覆う無数の蝶、照明に照らされ光と影に塗り分けられた巨大な壁、何気なく写る手前の格子や黒く縁取られた真理アンヌの顔と身体等々。

『殺しの烙印』映像が彼我の懸隔を露わにする 死を願う真理アンヌは常に雨や噴水、シャワーなどの水、鳥や蝶の死骸とともにいて、炊飯器を愛する宍戸錠は格子の向こう側に、部屋の中に、ロープで囲まれたリングの中に閉じ込められている。二人は互いに相手を殺そうとし、セックスをし、やがて、カメラの向こう側とスクリーンのこちら側に隔てられる。
 個々の映像とその構成が暗く美しく、そしてそれだけでは言い当てられない独特の雰囲気を醸し出している。


 また、排水管やビルの動く広告看板からの狙撃、アドバルーンでの逃走などの描写も魅力的だ。アニメ映画のような荒唐無稽さだが、実際にこれがアニメだったなら何の感興ももたらさなかったろう。実写映画で生身の人間がそれを実際に行うからこそ生まれた魅力だ。


『殺しの烙印』アニメ映画のような暗殺場面 ただ、それらの美点と、リアリティの破綻、物語や描写の多くに見られる陳腐さ、登場人物たちの心理や思考の不自然さなどの欠点、いずれが前景化してくるかは観客によるだろう。米の炊ける匂いに執着するキャラクター、殺し合う二人の男の滑稽な同居生活などのナンセンスも観客を笑わせるか興醒めさせるかの境界線上にある。

 『殺しの烙印』は個性的な、キッチュな映画なのだ。しかし、それにしても鈴木清順と大和屋竺を始めとする作り手たちは、実写とアニメにおけるリアリティの違いに全く無頓着で、先鋭的な表現もあれば驚くほど凡庸な描写もあるなど、明らかに感性とインスピレーションだけで作品を作っている。特に終盤の不条理な展開など計算からは到底、出てこないだろう。
 この映画を楽しむためには特異な感性への偏愛が必要だ。

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