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『逆噴射家族』真正の喜劇

監督/脚本: 石井聰互 原案/脚本: 小林よしのり 脚本: 神波史男 1984年

『逆噴射家族』心機一転、新築の自宅を破壊する一家 非常識で不謹慎極まりない映画。表題は死傷者を出した痛ましい航空機事故のパロディになっていて、夫と妻、親と子が殺し合い、祖父は孫娘を強姦しようとする……無茶苦茶な映画だ。しかし、だからこそ道徳の範囲内に収束してしまう通常のコメディ映画とは比較にならない面白さがある。
 既存の良識と価値観に揺さぶりをかけるのが、喜劇の効用の一つだとすれば、それを実現した喜劇は不謹慎にならざるを得ないだろう。『逆噴射家族』はそういう映画だ。

 それぞれに個性溢れる魅力的な登場人物、予想外の展開を見せる物語、それらをラストシーンまで抑揚をつけて心地よく運んでくれる編集など、まず作品の出来自体がとてもよく、さらにその上で道徳的な禁忌を次々と破っていく衝撃と快感がこの映画の最大の魅力であり特徴となっている。

『逆噴射家族』母:倍賞美津子と娘:工藤夕貴 空撮で捉えられた郊外の画一的で無個性な家々、そこに描かれる平均的な家族像が狂気を秘めた登場人物たちをありふれた平凡な人々に見せ、彼らの歌う歌謡曲とポップな背景音楽がリズミカルに映画を展開させる。そして妻が夫に自分をプレゼントする場面。突然テンポを落とし、夫の額をゆっくり流れる一筋の汗とその静寂が作り出す絶妙な間。そこから即、素早いカット割りと激しい音楽に戻って映画はまた疾走していく。内容への興味の有無にかかわらず観客を引っ張っていくだけの力を持った見事な編集だ。その後も背景音楽と同期した工藤夕貴の歌や小林克也が地下鉄の中を足早に歩く魅力的な描写などが緩急を作り出し、映画は軽快に心地よくテンポを刻んでいく。

 そして、徐々に彼らの個性的なキャラクターが描かれる。小林克也演じる夫は家族思いでシロアリを見ると発狂してしまうのが玉に傷だ。妻の倍賞美津子は夫と観葉植物を愛し、客人の前でストリップを演じてしまう程の陽気さ。息子は「月刊ムー」を愛読し猛勉強とピラミッドパワーで東大合格を目指しているらしい。工藤夕貴演じる娘のエリカは明るく脳天気で、アイドル歌手になるかプロレスラーになるかで悩んでいる。そこにやって来る植木等の祖父は飄々としていて常に楽しそうだが、ふざけて近所の子供の顔面にボールをぶつけて喜んでいたりもする。
『逆噴射家族』ピラミッドパワーで東大合格を目指す息子 皆、映画の登場人物としてはとても個性的で魅力があると言うべきだし、現実的に考えるとすでにこの時点で皆ちょっとおかしい。後に彼らが明白に狂気を呈していっても、どこに正常と異常の境界線があったのか分からない絶妙なキャラクターたちだ。

 後半では、我々が自明のものとしている家族関係が壊れ、彼らが個々に対立して殺し合うという異常な展開を見せる。そこに至るまでの心理の流れは自然で、考えてみると恐ろしいことなのだが、ドタバタコメディとしては極限まで振り切れていて爆笑ものだろう。

 個人に立ち返った彼らは家族や民族、国家などあらゆる共同体の良識を打ち破る。互いに相手を「気違い」と罵り、祖父は旧日本軍の軍服を着て血の繋がった孫娘を中国娘に見立てて強姦、処刑を宣言し「この姑娘、13にしてはよか体ばしとるたい」と言って胸を揉む。間髪入れず、母親が「やりゃいいのよ!」「気違い親子三代で気が済むまで殺し合えばいいのよ!」と叫ぶ。家族観念、旧日本軍と中国人などに対する信じがたいほどの冒涜だ。父はゴルフクラブで息子の頭をかち割ろうとし、兄は妹を犯そうとする。
 この映画は人間をあらゆる関係性から切り離して個に追い詰めて、共同体と近代的自我、双方のバカバカしさを見事なまでに曝け出してしまっている。抑制のない真正の喜劇だ。

『逆噴射家族』旧日本軍の軍服に身を包んだ植木等 もしこの映画に眉をひそめる人がいるとしたら、その人はおそらく、近代的自我や共同体の掟を含む、我々が依って立つあらゆる価値観に根拠が欠けている事実から、無意識のうちに目を背けようとしているのかもしれない。しかし、存在しないものを信じるより、真実を直視した上で大いに笑う方が健康にはお薦めだ。それに実際、我々はそんなものを必要とはしていないのだ。この映画の家族も家族の関係を破壊し尽くしたあと、いかなる根拠にも基づくことなく、素知らぬ顔で幸せそうに家族であり続けているではないか。

 それにしても、こんな危険な映画が企画され、実際に制作、公開までされたことには驚くほかない。製作者は ”不謹慎を抑制するより不謹慎の内実を見つめることこそ重要なのだ” という信念に取り憑かれていたのだろうか。おそらく単に、のんびりとした時代だったというだけのことだろう。
 それはともかく『逆噴射家族』は、固定観念から解き放たれた自由な発想、優れたシナリオと演出でできた傑作喜劇映画だ。社会の常識はこの映画をカルト映画という枠組みの中に閉じ込めておこうとするだろうが、そんなことは気にしなくていいだろう。すぐれた芸術はいつも常識の外側にあるものなのだから。

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