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『火事だ!』虚構のリアリズム (英題: Fire!)

監督 ジェームズ・ウィリアムソン 1901年 イギリス映画 4分40秒

『火事だ!』火事を発見する警官 ある建物に火事が起こり、それを見つけた警官が消防署に知らせ、住人の危機と消防隊の活躍があり、最後に住人が無事救出される。

 非常に単純だが、複数の異なるシーンを連結することによって起承転結、つまり物語を獲得している。映画が物語を語り始めた時代のオリジナル・ストーリーだ。
 ただ、その最初期の物語はあまりに単調すぎて、現代においては退屈な映画と思われることも多いのかもしれない。しかし、物語に注目する必要はない。この映画の見所は描写やカットの繋ぎ方だ。


 まず、物語はフィクションだが、描かれるのは書き割りと演劇の世界ではない。実在する場所でロケーション撮影が行われ、火事になる建物、消防署、街角を走る馬車、全てが本物だ。作り手は明確にリアリズムを志向し、自然さを目指している。警官や消防士たちの演技もリアルで、よく見る無声映画の一場面のような大げさなものとは違う。住人たちの動作は少しわざとらしいが、それも全体をワンシーン・ワンカットで撮る当時の常識的技法が逆に幸いしてそれほど目立たない。

『火事だ!』遠くから観客に向かってくる馬車。臨場感ある描写 馬車は街中、遠くに小さな姿を現し、徐々に大きくなって正面から観客に迫り、カメラの真横を通り過ぎる。狭い部屋の中ではカーテンが本当に燃え、煙が充満している。窓の奥に消防士が現れ、更に奥には外の風景も見える。避難する住人は二階の窓から消防士たちが地上で広げた布の上に、カットを割らず、実際に飛び降りる。
 遠近による被写体の大きさの変化、奥行きのある作品世界、危険な演技を実際に行って、それをワンカットで撮る迫真性の演出など、リアルで迫力ある描写の数々が非常に魅力的だ。現代では特殊な技法のように扱われるワンシーン・ワンカットが、おそらく意識されることなくごく自然に効果的に使われているのも興味深い。

 また、この映画は場面の繋ぎ方が通常のカット繋ぎだけになっている。当時、全編O.L.(オーバーラップ)だけで場面をつなぐ映画もあった中での、この繋ぎ方は意図的に選択したものだろう。そして狙っただけの効果をしっかりと得ている。フラットな編集が作り手の作為を隠し、リアルな描写、危機を描いた内容の客観性を高め、ドキュメンタリーのような迫真性を持って映画を展開させていくのだ。

『火事だ!』本物の炎、窓の向こうには消防士と外の風景が存在する 通常のカット繋ぎがいつから ”通常” と称されることになったのかは分からないが、劇映画の最初期に経験の蓄積もなく、フェードアウトやO.L.なども使えた中で選択された通常のカット繋ぎは、決して ”通常” ではなかったはずだ。それぞれ別々の場所で撮られた性質の異なる場面をただ無造作に繋げるだけ、というのは考えてみればとても斬新で大胆なことだったのかもしれない。通常のカット繋ぎは、きっとこのような偉大な先駆者の挙げた目覚ましい成果によって、いつしか通常となっていったのだろう。『月世界旅行』のころ常にO.L.を使っていたジョルジュ・メリエスも『不可能を通る旅』の頃には通常の繋ぎに変わっている。おそらく同業者の成果に学んだのだ。

 『火事だ!』はリアルで迫力ある描写、フラットで截然とした編集によって、今も魅力ある映画だ。虚構におけるリアリズムの魅力とその原点を示している。故きを温ねて新しきを知りたい人には必見だ。

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