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『狂へる悪魔』描写には魅力もあるが…

監督:ジョン・S・ロバートソン 出演:ジョン・バリモア 原作:ロバート・ルイス・スティーヴンソン 1920年 アメリカ映画

狂へる悪魔 スティーブンソンの『ジキル博士とハイド氏』の映画化作品。原作小説は1886年の出版で、発表当初から評判がよく、翌年にはアメリカで舞台化されている。映画は1908年以来、今日まで数え切れないほど作られ続けていて、ある英文学者によるとざっと70本はあるそうだ。その中で比較的評価の高いのがフレデリック・マーチがアカデミー男優賞を受賞した1932年アメリカ版ともう一本、この『狂へる悪魔』だ。

 『狂へる悪魔』は後の映画版『ジキル博士とハイド氏』の幾つかに物語の原型を提供している。が、その映画史的な価値はひとまず置いて、現代の目でこの映画を見てみると、実は出来があまり良くない。ラストの死者となったジキルの横顔、二重露光の巨大な蜘蛛に憑依されてハイドになるジキルなど、それなりに魅力的な描写はあるし、二人の人物を一人で演じきったジョン・バリモアの演技も見ものだ。ただ、そこまで突出して優れているかというと、ちょっと考えてしまう。一方で、欠点の多さはかなり目立っている。

 知人の回想とジキル本人の告白からなる構成の斬新さ、それによって徐々に真実が明らかになっていくスリルとジキルの苦悩への共感など、原作が持っている魅力の多くが捨て去られ、代わりに二人の女性を物語に絡ませて、非常に陳腐で通俗的な脚本に改変されている。おまけに当時すでに誰もが知っていて、それを見たいと思っていたはずのジキルの二面性やハイドの存在を映画はグズグズと出し渋り、丁寧で不要な前振りに熱中する。さらに字幕で役者の名前や物語の展開まで説明してくれる親切設計が映画の時間をズタズタに寸断していく。原作の着想の面白さだけは微かに残存しているが、この映画の大部分は物語の単なるイラストであり、表現形式も映画であるよりは演劇であり続ける。映画としてはとても残念な仕上がりだ。

 先に上げたように描写では面白い部分がある。ハイドの顔のアップにはコメディ的な可笑しみもあるし、右から左向きに扉をノックした人々が次のカットで左から右に入ってきたりするのも面白い。単にカメラの置き場所に困ったか、映画の方向性に作り手が無頓着だっただけかもしれないが…。

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