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『ヒューゴの不思議な発明』様々な示唆

監督 マーティン・スコセッシ 2011年 アメリカ

『ヒューゴの不思議な発明』無声映画を見るヒューゴとイザベル CGとミニチュアやセットを駆使して作られた作品世界、単純で表層的なキャラクターとストーリー、そして3D。作品の構造自体がジョルジュ・メリエスへのオマージュになっている。彼が21世紀に生きていたらこんな映画を撮ったのかもしれないと思わせる。もっとも彼ならもっとあからさまにアンチ・リアリスティックな作り物の世界にしてしまっただろうが。

 本国のアメリカでは視覚効果や美術デザインなどを中心に数多くの賞を受賞し、ゴールデングローブ賞ではマーティン・スコセッシが監督賞までとっている。アメリカの映画人から評価が高くなるのは自然なことなのだろう。ジョルジュ・メリエスと彼の子孫であるエンターテイメントとしての映画を祝福している作品なのだから。CGを多用した、しかも3Dの映画のビジュアルを高く評価するというのも、いかにもアメリカらしい。新しい技術に対してその未熟さを指摘し排斥するより、貪欲に取り込み、育て、映画表現をより豊かに、娯楽としても更に発展させようというアグレッシブな姿勢が単純で健全だ。駄目だったらまた別の道を探せばいいじゃないか、といった感じだろうか。

 勿論、世界中のどこへ持っていってもジョルジュ・メリエスを好きな人や映画史に関心のある人には楽しい映画であるに違いない。多少の欠点には目をつぶれるぐらいには。
 そうではない大多数の観客にとってはどうだろう? CGで作られた映像は金色と青色で統一されてきれいだし、人のネガティブな側面を避けて楽しく軽く物語を展開し、メリエスを祝福し、最後はきちんとハッピーエンドで締めてくれる。大人には少し物足りない内容かもしれないが、子供向けの映画としてはとてもよくできているのではないだろうか。子供たちがもしこの映画を見て映画の面白さに関心が湧けば、その学習の手引きとなる内容もちゃんと含んでくれている。

『ヒューゴの不思議な発明』列車事故の3つの表現 サイレント映画が決して一部の好事家のものではなく子供が見ても純粋に楽しめるものであることをヒューゴとイザベルが身をもって示してくれるし、書物が面白さと知識を与えてくれる素晴らしい存在であることも教えてくれる。そして、この映画が描く手品、オートマタ、ゼンマイで動く玩具、機械時計、機関車、そしてカメラとシネマトグラフ。全て人が創意工夫を凝らして作り上げた技術であり実用品であり、芸術であり娯楽だ。そしてそれらを描く手法はCGでありミニチュアでありセットであり、実景と生身の人間だ。これらの要素はただ純粋に楽しむこともできるし、見る側に関心さえあればその同一性と差異が示唆に富んでいる。楽しくてためになる学習の入口には最適だろう。モンパルナス駅の鉄道事故という現実はメリエスとマーティン・スコセッシによってそれぞれ異なった方法で映像化される。芸術が自然を模倣し、我々鑑賞者の中で自然が芸術を模倣することになるのだ。映画の中に様々な示唆が散りばめられている。

 また、パリの上空から駅構内に入っていく架空のカメラ、ヒューゴの後を追い1カットで駅舎の裏側を見せていくそのカメラワーク、映画アカデミーの資料室なるものが1930年代に存在する世界とその内部を遠近を強調して見せるショット、巨大な歯車と振り子、箱から舞い上がるメリエスのイラスト、全ての描写がフィクションとCGや3Dの魅力を最大限引き出そうとしている。映像の質感は好悪が分かれるだろうが、その仕事振りはプロフェッショナルだ。

 ただ、やはり大人向けの映画ではない。背景音楽が多用されて少し煩わしく、全てのシーンに音楽を付けないと気が済まないのだと言わんばかりに音楽づけになっている。ヒューゴは表題に反して何も発明しないし、フランス人はみんな英語で会話する。オートマタも鍵も、曰くありげな死を遂げる彼の父も、飲んだくれの叔父さんも単にストーリーを進めるための道具としてのみ扱われ、使い捨てにされる。ヒューゴの駅構内での生活やメリエスの絶望は設定と描写があまりに空疎で、真実味がまったくない。
 不気味の谷というものは人物に限らず、映像や物語にも存在しているらしい。中途半端なリアリズムは何もかもを胡散臭い偽物にして観客を興醒めさせる凄まじい威力を発揮する。
 アニメ映画のようなディフォルメされた人間を描くなら、やはりメリエスがそうしたようにもっとデフォルメされた作り物の作品世界が必要だったはずだ。おそらく娯楽を意図しファミリー層をターゲットにした大作映画ではそんな冒険もできなかったのだろうが……。この映画の表現は市場の要請するリアリズムとそれに反するメリエスの虚構性との妥協点であったのかもしれない。

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