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『可愛い悪魔』美しい仮構の世界

監督:大林宣彦 出演:ティナ・ジャクソン(川村ティナ)・秋吉久美子 1982年

『可愛い悪魔』ノスタルジックなパートカラー 手作り感ある仮構の作品世界と数々の特殊で美しいイメージに際立った魅力がある。

 日本テレビの「火曜サスペンス劇場」の一作として作られた作品で、映像や音声の品質はテレビドラマそのものだし、大袈裟で不自然な演技、過剰に使用されて煩わしい背景音楽など、弱点も沢山ある。映画としては鑑賞に耐えられないレベルに見えるかもしれない。
 しかし、外的条件に左右されない部分……着想や場面設定、衣装、シチュエーション等々が尽く優れていて、その映画的魅力は数々の弱点を補って余りある。毎シーズン公開されては消えていく凡百の新作映画など比較にならない映画的な面白さがあるのだ。
 多くの観客はもしかしたら鑑賞直後はあまりに沢山ある瑕疵を論うのに忙しく、美点にまで気が回らないかもしれない。しかし、やがてこの映画を見たことさえ忘れてしまった頃には、死の舞踏を舞う白いドレスの女性や絵で作られた海辺の家など、美しいイメージだけが忘れがたく脳裏に刻み込まれていることに気づくだろう。

 野外で行われるキリスト教風の結婚パーティ、白馬と白い馬車、ウェディングドレスの女性。木々や草の緑と人々の白が美しい。黒澤映画のような強風が吹いているのも偶然の幸運だったのかもしれないが魅力的だ。窓ガラスを突き破って落ちる花嫁は古風なカメラのレンズに上下反転した鏡像として映し出され、大正時代の海軍服のような洋装で岸田森が和傘を差して歩いてくる。場所や意匠から撮り方まで全てが工夫されていて、魅力溢れる映像を作り出している。

『可愛い悪魔』趣向を凝らした映像
 その結婚式の描写も含め、古い木造建築の病院とリョウコ・コウジ・医者ら人々の白さ、通り過ぎる修道女、何を生業にしているのかも不明な一家とその豪華な屋敷など、すべてが非現実的で、キリスト教の意匠とともに白人の配偶者や恋人などが逆向きのオリエンタリズムを漂わせている。視覚的には都市や郊外、農村などは存在せず、緑豊かな自然と意匠を凝らした家、白い衣装の人々が存在する別荘地の非日常だけが描かれて、夢のように幻想的な仮構世界を形成してゆく。

 映像は美しい絵を描き出す。秋吉久美子演じるリョウコは常に水と関連付けられ、水の流れる鏡越しに捉えられ、シャワーを浴び、雨の降るなか川に赴く。二階にある金魚鉢が特に意味もなく何度も映し出され、踊る「メリーさん」を愛するアリスは回想シーンの中で首を吊ってぐるぐると回る父親の遺体の側で楽しそうに踊る。
 やがてクライマックスでは、リョウコが水の満ちてくるシャワールームに閉じ込められ、アリスの母が金魚鉢を頭に被って死の舞踏を舞い、アリスはそれを見つめて微笑む。序盤から伏線のように積み重ねられていた水と金魚鉢の描写、「メリーさん」・父・アリスと徐々に比喩的な連関を形成してきた舞踏、それらが見事に映画のクライマックスを彩るのだ。個々の描写とその構成の美しさは傑出している。この優れた描写を捨てて物語の陳腐さに着目するのは馬鹿げていると言うべきだろう。
 他にもあり得ない角度で足が曲がる花嫁の遺体、回想シーンのノスタルジックなパートカラー、青白く不気味なアンティークドール、赤い絨毯を始めとした屋敷の内装や絵でできた海辺の光景など、映像の品質は低くても、そのアイデアや意匠などが視覚的な魅力を作り出し、見事な映画になっている。テレビドラマ用に作られたという外的条件を考慮すれば、誰もが絶賛せずにいられない素晴らしい成果だろう。

『可愛い悪魔』伏線となる美しい描写
『可愛い悪魔』比喩的な連関を獲得した描写がクライマックスを形成する
 
 『可愛い悪魔』はテレビドラマ特有のわざとらしさや不自然さを備えてはいるが、大林作品の常として現実を極端にディフォルメした作品世界を作り出しているので、それらの弱点は作品そのものの価値を毀損するほどのものではない。リアリズムを装った多くの映画が僅かな瑕疵によって台無しになってしまうのとは対照的だ。
 そして着想や構成の美しさには見紛うことのない映画的魅力が宿っている。貧しい環境にありながら創造性が作り上げた見事な映画だ。

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