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『麗猫伝説』映画の嘘

監督:大林宣彦 出演:入江たか子・風吹ジュン

『麗猫伝説』帽子を被り大正時代の正装のような登場人物たち 1983年に火曜サスペンス劇場の一編として作られたテレビ映画で、1998年に劇場公開されている。完成度は極めて低いが、虚構性の露わなディティールや短い1ショットの美しさを備えた大林宣彦らしい一作だ。

 戦前の大女優で戦後は化け猫女優として知られた入江たか子が出演していて、作品の内容も彼女へのオマージュとなっている。この映画の描く世界では、映画自体は現実の世界同様、衰退してしまっているが、化け猫映画は軽蔑の対象ではなく、入江たか子演じる化け猫女優の竜造寺暁子も伝説の人として尊敬されている。

 プロデューサー役の平田昭彦は常に正装で黒い中折れ帽を被り葉巻をふかしていて、もう一人はピスヘルメットを被ってなぜか19世紀の探検家のような装い、映画監督はチェックのスーツに蝶ネクタイ、峰岸徹は白のスーツにパナマ帽と、まるで大正時代の人々のようだ。さらに麦藁帽子に白いシャツ、サスペンダーでズボンを吊るした風吹ジュンと柄本明演じるハンチング帽の若い脚本家。皆が皆、帽子を被って個性的で時代掛かったファッションに身を包んでいる。雰囲気たっぷりのキャラクターたちだ。
 作品世界は虚実入り混じり、現実の尾道市が虚構の映画の都、瀬戸内市となり、竜造寺暁子はなぜか老いることなく往年の美しさのまま孤島に暮らしている。終盤では映画の撮影現場に風吹ジュン演じるヨウコが闖入し、虚構の中に現実を持ち込んで、そのカットがそのままOKカットとなる。
 実際には見たことはないが昔ながらの類型そのままの人々、同時代の現実に見せかけることなく作品のために創出された虚構性の露わな世界など、映画らしい嘘に溢れている。

『麗猫伝説』風吹ジュンが坂を自転車で進む美しい一場面 尾道の古い街並みを捉えた叙情的な画、そこに紛れ込んだ「瀬戸内キネマ」などの虚構、建築物や服装の意匠、多用されるジャンプカットとパートカラーなど、魅力的な描写が沢山ある。地面に落ちた真赤なバラからのトリッキーなズームアウト、風吹ジュンが自転車を立ち漕ぎして坂を登り、やがて下っていく何ということのない一場面の美しさ、大泉滉が彼女を鞭打つサディズム的描写…。
 そして、死者の口からフィルムが紡ぎ出され映画が上映される鮮烈なイメージ。その映像はおそらくこう言いたいのかもしれない。実は現実においても映画はすでに死んでいて悲しい過去の夢を映し出しているだけなのだ、と……。

『麗猫伝説』薔薇の花弁の美しさとそこからのトリッキーなズームアウト 『麗猫伝説』にはこれら映画そのものへのオマージュのような甘美な魅力がある反面、全てがあまりに嘘くさくて、観客を白けさせてしまうという一面もある。しかし、映画を見ている間だけは嘘や虚構、夢などの非現実を能動的に肯定してみてもいいのではないだろうか? 我々は現実を見るために映画館に入ったのではないのだから。映画の紡ぐ悲しい嘘をせめて映画の観客ぐらいは楽しむべきなのだ。

 ただ、シナリオだけは少し残念な出来で、竜造寺暁子の不老が重大な謎として演出され求心力を発揮するわけでもなく、化け猫は物語上の何の意味も与えられておらず、ミステリアスでもサスペンスフルでもない。物語には観客を惹きつける要素が希薄だ。多少退屈に感じてしまう部分が出てくるのは避けられないだろう。物語の凡庸さに着目するより描写の面白さを味わうべき映画だ。

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