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『腰辨頑張れ』成瀬巳喜男、現存最古の監督作

監督/原作:成瀬巳喜男 1931年

『腰辨頑張れ』大男の山口勇と小さな関時男のコミカルな保険勧誘合戦 成瀬巳喜男8本目の監督作。現存最古の成瀬作品でもある。今日の目で見ると月並みなストーリーだが、単なるドタバタコメディに留まらず、生きた人間の悲哀を盛り込んだことが当時は高く評価されている。'30年代初頭、日本映画がまだ発展途上にあり、成瀬自身もキャリアをスタートして1年ほどの頃だ。
 そして統一された全体としての作品の出来は平凡かもしれないが、細部には魅力も沢山ある。日常の小さな出来事がテンポよくコミカルに展開して観客を飽きさせないし、成瀬らしい技巧を駆使した見ごたえのあるクライマックスも用意されている。

 大男の山口勇と小さな関時男、デコボコな二人の保険勧誘合戦は視覚的にも楽しいし、岡部(山口勇)の息子・進のキャラクターがいい。やんちゃな男の子で、3人を相手にした喧嘩でも一歩も引かず応戦する。即座に下駄を武器にするあたり、かなり場慣れしているようだ。土管の中に走り込み敵の3人がその中を覗き込むと後ろから回り込んでキックをお見舞いし、足を引っ掛けて3人まとめて倒して上からパンチの雨を浴びせる。演技のはずだが結構本気で殴っているのがリアルで笑ってしまう。成瀬の短いカット割りも効果的だ。
『腰辨頑張れ』『鉄路の白薔薇』を想起させるフラッシュ・バック
 
 
『腰辨頑張れ』クライマックス、病室での表現主義的な描写 後半はストーリーが定型的で先の展開が観客に見えてしまっているのが残念だが、若い成瀬の才気走った演出が見られる。
 息子の事故を知らされた山口のアップには急速に流れ去る線路、正面から迫ってくる機関車などが変則的なワイプでフラッシュ・バックし、揺れる時計の振り子、滴を落とす水道の蛇口などのアップと、白い医者や看護婦の手前を黒いシルエットとなった母が右に左に落ち着かなげに動くショットが交互に繋がれ、ジリジリとした焦燥感を醸成する。暗い病室の中、スポットライトに丸く浮かび上がる人々、飛行機・花火・青空と草原のモンタージュ……。個性的で面白い描写が続出する。それらのアグレッシブな表現が感じさせる若さと才能が好もしく魅力的だ。

 『腰弁頑張れ』はデビュー1年目の成瀬巳喜男がその実力を垣間見せ、決してただの新人監督ではないことを示してみせた映画、と言えようか。

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