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『未知との遭遇』 彼岸への憧憬

監督 スティーブン・スピルバーグ 1977年 アメリカ映画

『未知との遭遇』童話のような森の中の一軒家
  森の中の一軒家。特殊効果が日常を魅力的な童話の世界に変える。
 特殊効果で作られた風景が魅力的だ。そこだけ僅かに明るくなっている地平線、その向こうの星空、灯りが消えていく遠景の街。中でも森の中の一軒家はまるでおとぎ話のように蠱惑的だ。U.F.O.の色彩豊かな光ももちろんいいが、一見特殊効果でなくてもよさそうな風景が、日常の中に微妙に非日常が混じり合ってとても魅力的な世界を作っている。
 踏切の遮断機や郵便箱がガタガタと動くのはどちらもミニチュアなのだろうか? 玩具のような動きがこの映画にぴったりだ。
 砂漠の朽ち果てた艦船、遠景に小さく人を配し空を指さす手で画面いっぱいにするカットも力強い。

 展開も描写もリアルだが、この映画はそれを無邪気な子供のような視点で描いていく。映画全体に悪意もまったく存在しない。一般人の物語を玩具が動き出すシーンから始め、小さな子供がU.F.O.を「オモチャ」と呼ぶ。主人公のロイも少し子供っぽいところのある男で、部屋に電車の模型を走らせていたり、ピノキオやエンタープライズ号を飾っていたりする。狂ったように粘土作りに夢中にもなるし、一番下の子はそれも楽しそうだ。この映画ではこれら子供の視点をうまく導入していて、U.F.O.は怖いものでなく楽しいものになっている。ロイや誘拐された子供にとってはワクワクするような存在だ。普通の大人たちにとっては非常識であったり、恐怖の対象であることもきちんと描かれていて、リアリティも手放さない。

『未知との遭遇』 遠景に人を配し、手前を天を指す手で埋めつくした迫力溢れる場面
 遠景に人を配し、手前を天を指す手で埋めつくす迫力溢れる場面。
 物語には宗教的な側面もあり、芸術への祝福のようでもある。
 テレビでは『十戒』を放送しているし、U.F.O.を見た人々に憑りついた正体不明のビジョンは神の啓示のようでもある。インドの僧侶たちは天上の歌声を聞き、デビルズタワーに集まる人々はちょうど12人。天に旅立つロイは幼な子の心を持っているし、宇宙人はまさに幼子のような人々だ。
 ロイはU.F.O.に遭遇して以来、芸術家のようでもある。インスピレーションはあるがそれが何かわからず、表現に苦しむ様は、芸術家の創作活動そのものに見える。仕事を首になろうが、妻が子供を連れて出て行こうが、そのビジョンの実現に没頭し、部屋いっぱいの巨大な作品を作り上げる。クライマックスの光と音の乱舞はそれ自体、情動的な喜びであるとともにコミュニケーションでもあって、まさに芸術だ。そこに参加したすべての人が幸せそうで、祝祭のような雰囲気に包まれている。

 スピルバーグは会社との契約で特別編では宇宙船の内部を描いているが、これは本当に不本意だったろう。ファイナルカットでは観客にとっても幸いなことに無事削除されている。
 異星人は眩しい光で細部をうまく隠され、宇宙船の内部は映さない。この映画では宇宙人もU.F.O.もただ美しく不可知の存在であるべきで、内容を持ってはならないのだろう。それはあくまでも手の届かない彼岸であるからこそ、我々観客にとっても憧憬の対象となり、世俗の全てを取るに足りないものにするのだから。1945年からやってきた不幸なパイロットたち、時間感覚または価値観が異なっているらしい異星人、残されたかわいそうな家族、それらネガティブな要素は観客には一切問題にさせない。素晴らしい演出だ。

『未知との遭遇』 U.F.O.に搭乗するロイ。眩しい逆光とシルエットとなったロイが天上への旅立ちを演出する。
 天上への旅立ちを眩しい逆光とシルエットとなったロイで表した場面。
 凄いのはロイが宇宙人に夢中になったまま…、常識的な観点から言うと正気に戻らないまま、妻子のことを完全に忘れてU.F.O.に乗って旅立ってしまうラストだ。こういう映画の常道なら『E.T.』や『天空の城ラピュタ』などのように素晴らしい体験をした主人公が日常に戻ってハッピーエンドになるものだが、『未知との遭遇』は違う。妻子を捨てて旅立つ。それをハッピーエンドとして描いてしまうのである。未知の素晴らしいもの、それを表す宗教や芸術への完全な肯定であり、祝福だ。この方向ではその究極に行き着いた映画だろう。

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