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『俺たちに明日はない』 社会の外側にある生が強烈な魅力を放っている

監督 アーサー・ペン 1967年 アメリカ映画

俺たちに明日はない アメリカン・ニューシネマの先駆とされている映画。単なる犯罪者を「反・体制」と捉えるのは飛躍しているが、当時はそういう時代の空気だったのだろう。アメリカン・ニューシネマは70年代に終わったが、この映画は今も生きている。
 凶悪な犯罪者を描いているのに、彼らの生き方とその視点から眺める世界が予想外に魅力的だ。描写のリアリズム、内容に反した喜劇的な語り口など、客観的には破滅的な人生を、彼らの立場から肯定的に描く作品設計に両義性が宿っている。

 映画は冒頭ボニーから描いていくことで社会の周縁部から、その越境、外部へとスムーズに観客の視点を誘導していく。
 ボニーはクライドに出会うと嬉々として自ら行動を共にする。彼女にとって強盗は肯定的な存在であり、更に殺人も厭わない拳銃強盗であることで価値を増す。C.W.モスも父親の店から金を盗み出すことで自分の価値を証明し、彼らの仲間になる。まずこの見事に転倒した価値観がこの映画の魅力だ。
 さらに社会からはみ出し、社会に敵対する立場となったクライドたちの生は、野生動物のように今を生きる刹那性と自由に満ちていて、社会の庇護下でのんびり映画を見ている我々を魅了せずにはおかない。殺人や強盗は社会の抑圧からの解放を示して密やかな快感を生み出し、常に死につきまとわれる状況が退屈な日常を刷新し、生を輝かせて強烈な魅力を放っている。

 人物の描き方もとてもよくて、その言動に滲み出すキャラクターは彼らの境遇を見事に反映している。その境遇によって形成されたキャラクターがリアルで、彼らの転倒した価値観を自然にしている。カメラは常に社会よりも彼らの側に寄り添い、彼らの価値観で色づけられた世界を見せてくれる。

俺たちに明日はない 語り口は、犯罪、逃亡と次第に追い詰められていく内容に対して、所々にギャグを挟み、喜劇的な音楽に乗せて明るく軽快だ。主人公たちの悲しい無邪気さを反映していて、悲劇的な内容に対立しているのがいい。

 描写そのものは完全にリアリズムだ。銃を撃つ動作と撃たれる動作を1カットで捉える殺人の描写が持つ現実感とその衝撃は今も全く色褪せていない。ラストの素晴らしさも同様だ。遠くからゆっくりと近づいてくる車、何らかの意味を隠し持っているらしい森の木々、飛び立つ鳥、スローモーション。細かなカット割りで何気ない日常の一瞬一瞬が切り取られる。失われつつある日常の美しさと瞬時の感情を捉えた短いカットの連続は、彼らの生の象徴のように瑞々しい。引き伸ばされる時間が妙にリアルだ。必然的な結末をその鮮烈な描写が締めくくる。

 社会に対する人間の矛盾した心情の一面を自然状態の自由と死に昇華してしまう爽快な映画だ。

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