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『ソナチネ』 北野武4本目の監督作 世界の余剰としての生を描く

監督 北野武 1993年

映画『ソナチネ』 無為な遊びとしての相撲 この映画では人間のあらゆる行為…その生や死からも意義が奪われている。生には動機と目的が欠けていて、死は唐突で無意味だ。元々意味や価値といったものは人間が持ち込んだもので世界の属性ではないから、『ソナチネ』は普段我々の目にしない客観的な世界の姿を見せてくれているわけだ。この映画の描く客観的な世界で生は無意味な余剰となり、その自由さが我々観客を魅了する。
 ヤクザの抗争と内紛を描いた物語はやくざ映画やアクション映画を想像させるのに、それらとは全く異なる魅力を持った映画になっているのもいかにも天邪鬼で面白い。

 生は静謐だ。
 物語においては主人公の村川にとって沖縄行きが親分からの意に添わぬ命令という形で、初めから動機の伴わない無意味な行動として提示され、沖縄に到着し現地でも彼らが必要とされていないことが分ると、益々その行為から意義が失われていき、彼らの存在を無意味にしていく。
 描写の面ではアクションが人物の動機や感情を込めて行われ観客を興奮させるということがない。クライマックスの銃撃戦も建物の外側からそれを見る人物を描き、別の部屋で眠る女のカットを挿み、その客観性と対照は少しも観客を興奮させることなく、独特の冷めた臨場感を生む。

映画『ソナチネ』 舞踏 この映画における人間の生を象徴している 死は映画によっても登場人物たちによっても一切特別な価値を与えられることがない。多くの人の死が描かれるが、生者は誰一人彼らの死に驚いたりしないし、悲しんだり、憤りを見せることもない。たとえ彼らが感情を表していたとしても、この映画の編集はそれを観客に見せることを許さなかっただろう。
 序盤の雀荘オーナーが死ぬ場面でそれに加担するすべての人物がその行為に何の意味も見出しておらず、日常的、遊び半分に殺人が遂行される。それ以降、死はずっとそのようなものであり続け、人は何の意味もなく唐突にただ死んでいく。

 そしてこの映画が傑出しているのは生の無意味さに留まることなく、更にその先を描き出したところにある。人は無意味さの果てに遊びに辿り着くのだ。意表を突いた真理だ。

 存在意義を失った人間たちは琉球舞踏を踊り、波打ち際で相撲を取り、フリスビーを投げて無邪気に遊ぶ。人を殺傷するはずの銃は頭の上に載せた缶を撃ち抜き、ロシアンルーレットや戦争ごっこに使われる。死の間際にある生を遊ぶその一連の場面は、世界の余剰としての生を強烈に照らし出して魅力を爆発させる。
 中でも舞踏は殊に美しい。不可解なほど魅力的だ。それはまさしく行為のための行為であり、人々は色鮮やかに、笑顔で、そしてよりうまく踊ろうとする。世界は人間が与えたあらゆる意義と目的から解放され、人々はただ、原初的かつ無意味な運動に興じる。一切の意味づけを剥ぎ取られたあるがままの世界と人の何と美しく清らかなことか。もし、生が墓上の踊りに過ぎないとするのなら、我々はまさしく彼らのように踊るべきだろう。

映画『ソナチネ』 遊びと死を一つの画面に捉えた場面  日常に紛れ込んだ唐突な暴力、他愛ない遊びと残虐な殺人、花火と銃、左に遊ぶヤクザたち、右に死をもたらす釣り人を1カットで捉えたショットの象徴性など、描写は常に静寂さの中に生と死を同居させてゆき、クライマックスの銃撃戦では先にホテルの配電室に侵入する場面を入れつつ、本番の殴り込みではホテルの灯りが静かに消え、外から眺められた部屋の窓に銃の発火炎が生と死を明滅させる。この映画の視点はついに最後まで彼らの生に意味を見出すことなく、客観的にただ、見つめ続けるのみだ。
 ラストの動機不明で無意味な死はもはや必然的でさえある。美しい絵の最後のピースのようにピタリと当て嵌り、映画を意味的にも完結させる。『ソナチネ』は北野武の作り出した最も完成度の高い──死の映画だ。

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