FC2ブログ

記事一覧

HOME

『狂った一頁』 衣笠貞之助の傑作前衛映画

監督:衣笠貞之助 脚本:川端康成 1926年

『狂った一頁』 奇怪な舞台で踊る女

独創的な映画だ。

無声映画であり、かつ、字幕がない。美術、撮影、照明、編集などにおいて様々な実験的な表現がなされており、通常の劇映画、商業映画にない魅力を持っている。説明的なところが全くない映画だが、決して難解ではない。普通に見ていると主人公は病院の使用人で、彼が常に執着している女が彼の妻で、結婚する女は彼らの娘だろうと事後的に解釈出来てくる。

 「日本で生まれた最初の素晴らしい映画だ、と私は確信を持って断言する。そしてまた、日本で作られた、最初の世界的映画だ」
 この同時代の岩崎昶の批評はとても適切だったのではないだろうか?
 他では見られない貴重な面白さがあり、その面白さは明らかに時代を超越している。さらに字幕がないので日本語ができなくても問題なく楽しめる。

 観客は1カット見るだけで、作り手が通常の劇映画から離れた自由な表現を求めているのが分かるはずだ。監督の衣笠が発想し、彼や横光利一ら作家たちのアイデアを川端康成が脚本にまとめている。商業映画として「純映画」を撮ろうとする野心が素晴らしいし、新感覚派らしい主観的な感覚の表現に挑戦しているのもいい。

 奇怪な舞台で踊る女性、強烈な雨、目まぐるしいフラッシュバックなど、表現は冒頭から斬新だ。踊る女性からカメラが後退していくと格子の隙間から彼女を覗いている構図になる。格子はここから病室の鉄格子や病院の門などとなって全編に頻出し、この映画の視覚的な魅力の重要な要素となっている。それは舞台である精神病院に相応しい要素であり、様々な場面で隔離された空間を演出する。とりわけ主人公に二重露光で映し出される格子の影が印象的だ。
『狂った一頁』 男と格子を二重露光で捉えた魅力的な映像 他にも急速なパンを伴うフラッシュバック、フィルムの逆回し、凹凸に歪んだ映像など様々な実験的手法が駆使され、パースペクティブの狂った世界を作り出す。
 それらの表現が冒頭の舞踏を初め、男の殺人や女を連れての脱走など、非現実的な出来事を描き出していき、現実と幻想が全く区別されない。主客の入り混じった作品世界が独特の魅力を放っている。

 『狂った一頁』の最大の魅力は、個々の表現が作り出す奇怪な主観世界を体感させるところにあり、全ての映画に言えることだが、 とりわけ映画館で見るに相応しい作品となっている。その機会がほとんどないのが残念だ。物語性豊かな娯楽作品を見る目で鑑賞してしまうと、変な映画、退屈といった鑑賞感もあるかもしれないが、それでも見る価値はある映画だろう。



『狂った一頁』の評価について


 『狂った一頁』の現代における評価は残念ながら作品の出来に対してかなり低いと言っていいだろう。それに伴って当然知名度も低い。これは批評家の怠慢なのではないだろうか? 1926年にはキネマ旬報の年間ベストテン4位で、非常に高く評価している批評家もいたのだが。現代においては日本映画史で軽く触れられる程度で、作品の内容や表現に言及されることもあまりないようだ。オールタイムベストなどにその名が挙がることもない。
 この、作品にとっても観客にとっても不幸な状況は今後変わっていくだろうか? 

このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント

拍手とコメント、両方して下さる方はお手数ですが、コメントは下のコメント欄にご記入下さい。拍手ボタンを押した後に出てくる「拍手コメント」に書き込んでも通常ページには表示されない仕様になっているようです。                       ⋮

コメントの投稿
非公開コメント

年代別

ジャンル別

プロフィール

ぱこぺら

Author:ぱこぺら
批評なので基本的にネタバレです。できるだけ下記の方針で書きます

・作品外の周辺情報を考慮せず作品内の表現に基づいて評価する
・歴史的な読み、評価から離れて現在の視点から論じる

リンク

撮影監督の映画批評

無意識の感情移入など専門的な視点から語られる映画評。個性的。

 

映画中毒者の映画の歴史

創成期の映画史と当時の作品の解説。貴重な情報が多数。


このブログをリンクに追加する