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『狼の血族』 性的暗喩と不条理に満ちたおとぎ話

監督 ニール・ジョーダン 1984年 イギリス映画

 イメージ、世界観、物語、いずれもが独創的だ。本編の内容を夢として描き出し、その中に奇妙で美しいイメージ、現実とは異なる因果律に支配された不思議な世界とそこで展開する不条理な物語を見せてくれる。

『狼の血族』 ロザリーン
  夢の世界におけるロザリーン
 冒頭、部屋に閉じこもり眠っている少女。同一カット内で照明が急速に昼を夜に変え、不自然に風が舞う。カメラは部屋に飾られた水兵や熊のぬいぐるみを一つ一つパンしていき、最後に窓の外に広がる森に至る。そしてその暗い森の遠景からオーバーラップして森の中、彷徨う彼女の姉が現れる。

 とても巧い導入だ。彼女は巨大化した水兵や熊のぬいぐるみに出会い、狼に追われ、森の奥へ奥へと逃げていく。ぬいぐるみや家のミニチュアなどグロテスクに変形した現実に始まり、物語や映画においてしばしば人の心の奥底を隠す暗喩として用いられる森を通り、不条理な悪夢の中にスムーズに観客を誘導する。『狼の血族』はとても”巧い”映画なのだ。

 辿り着いた先は西洋のおとぎ話の世界だ。おとぎ話の中で更に様々なおとぎ話が語られる。セットやミニチュアでできた作品世界はいかにも作り物然としていて、魅力的であるとともにこの悪夢のような作られた世界にはピッタリだ。
 チープさを感じる観客もいるかもしれない。セットの他にも小道具の造作や犬を狼として出演させていたりと確かに予算の不足は隠しきれていない。しかしこの映画はそんな外的条件に負けないだけの創造性を持っている。チープなセットは作品の性質に合致して魅力を獲得しているし、割れる卵やそこから生まれる人形は玩具のようではあるが、その着想とイメージは素晴らしい。狼だけはどうしようもなかったようだが極力影にしたり、目を光らせたりと工夫されている。映像にその創意工夫と表現への意欲が溢れていて、あと必要なのは観客の積極的な参加だけだ。

 『狼の血族』はとにかくイメージや物語が新鮮で、「赤ずきん」や「狼男」など手垢に塗れた類型を元にしながら、出来上がった作品はオリジナリティに溢れる。

『狼の血族』 中世の森に車で現れるロザリーン
  中世の森に20世紀前半の自動車で現れるロザリーン
 既存のホラーやファンタジーに依拠しない独自のイメージを作っていて、狼の首が牛乳に沈み、その白い液体に人間の男の顔となって浮かび上がってくる描写、おとぎ話の世界に突然現れる20世紀前半のガソリン自動車、鳥の卵から人形が生まれ、その人形の目に滲み出す涙などの暗喩的な表現、お婆さんの頭が陶器となって壊れるイメージ等々。描写そのものの魅力が際立っている。

 物語の特異さもイメージとともに特徴的だ。描かれる世界の法則、お婆さんやロザリーンに語られる昔話の真偽やその寓意、登場人物たちの心理など…論理が全く通用しない。なぜ鳥が人形を生むのか? 母がそのことによってロザリーンを祝福するのは何なのか?
 数々の台詞や描写は性の暗喩を思わせ、赤いショールは経血を、卵から人形が生まれ母親がそれを喜ぶ様は初潮を連想させる。他にも「道」を巡る警句の数々、コンパスを持つ獣など。それらは様々に解釈されることを待っているようにも見える。それもこの映画の魅力の一部だが、それ以上にその表現が持つ昔話特有の寓意性が意匠として魅力的だ。

 因果律を理解できないまま展開していく物語の不思議さも魅力となっている。物語は夢の論理を掴ませず、しかし決して難解さを感じさせることはなく、奇妙な起承転結を導く。ありきたりな類型的展開からかけ離れていて実に新鮮だ。

『狼の血族』 中心から赤く染まっていく白い花
  中心から赤く染まっていく白い花
 最後に村の因習を軽やかに飛び越え、狼となって駆けていくロザリーンの姿に解放感を味わうのに論理など必要なかったのだ。数々の暗喩的な表現も解読など望んではいないだろう。その流動する意味作用をそのものとして楽しむためのものだ。ラストで森を越え人形を踏みつけ現実を侵食してくる悪夢、最後に語られる警句もおとぎ話の意匠としての魅力を湛えている。

 『狼の血族』は奇妙で美しいイメージ、因果律の読めない物語、暗喩と警句、それら個々の要素が作り出す世界が不思議で新鮮な魅力を放っている。とても個性的で面白い映画だ。

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