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『快盗ルビイ』 表現の魅力と映画としての失敗

監督 和田誠 1988年

 作品世界が魅力的だ。自然主義的なリアリズムにはっきりと背を向けて、オシャレで楽しいデフォルメされた虚構世界を作り出していく。
 手作り感のある夕焼け空や窓外の星空、突然部屋の中で主演の二人がミュージカルを演じ出し、舞台劇のようなスポットライトを浴びる演出、特撮映画のような夢の場面、侵入した高級マンションの一室でのドイツ表現主義のような光と影の交錯など、個性的で面白い表現が随所に出てくる。作り手の映画に対する愛情も感じさせて実に魅力的だ。実在の場所を使用した場面でもオシャレな街角、絵になる背景のみを切り取ってきて虚構の世界の魅力をきちんと維持してくれるし、自然さより分かり易さを優先させた真田広之と小泉今日子の大げさな演技も作品の世界観にピッタリだ。
 これらこの映画の造形、ビジュアル面に見られる美点の数々は、さすがは『麻雀放浪記』を撮った監督だと思わせる。

快盗ルビイ ミュージカル的演出
  突然ミュージカルに転換する一場面
 ただ、『麻雀放浪記』では設定、描写、演出などすべての要素が調和して全体としての見事な映画となっていたのに対し、『快盗ルビイ』はそれぞれの要素が各個バラバラのまま、映画としての面白さは高まって来ない。

 実際のリアルな街角といかにも手作り感の滲むセットなど実物と作り物を使い分ける表現の形式、すり替えや成りすましなど本物と偽物の入れ替えを描いた内容。それぞれの虚と実が互いに対照し合い、更に形式と内容の対照が相乗効果を発揮して観客を魅了する……とはならない。もっともっと素敵な映画になってもよかったはずなのに…。『麻雀放浪記』にあった魔法の力がここではなぜか失われている。
 いや、「なぜ」ということはないかもしれない。『麻雀放浪記』には人物の強烈な実在感、彼らの全生活をかけた本物の感情があったが、この映画では作品世界だけでなく人物の設定やそのキャラクター、感情まで全てが作り物なのだ。ルビイの希薄な実在感、いかにも皮相な岡田真澄と木の実ナナの夫婦その他ほぼ全ての登場人物、全編を通して描かれる騙し騙されるプロセスの幼稚さ、どこを探しても本当らしさ…リアリティが見つからない。この映画には魅力的な虚構の世界を支えるべき土台、リアリティが存在していないのだ。虚実の対照といっても何一つ本物が存在しないのだからそもそも対照する相手がいない。それ以前にリアリティのない作品世界が全てのデタラメを許容してしまう。何でもありのこの世界では主人公たちの失敗も成功もあまり意味を感じさせない。映像がいかに面白い世界を描いていても意味を感じないものを見続けるのはどんな観客にとっても苦痛だろう。トオルが警察に捕まる描写に観客は危機感を感じるべきなのか、それともそのドジっぷりを笑えばいいのか。作り手ははたして本物の危機を演出しているつもりなのか? コメディとして軽い失敗としての笑いを意図しているのだろうか? まあ、どちらにせよ我々観客とはあまり関係がなさそうだ。そもそも登場人物たちには我々を真剣に心配させたり、愛情を込めて笑わせるような本物の感情が欠けているのだから。
 それにしても前作ではプロフェッショナルなイカサマ師だった和田誠が、ここでは素人同然であまりうまく観客を騙せていないのはちょっと面白い事実だ。まるでそれぞれの映画の主人公を反映したかのような変貌ぶりではないか。主人公に感情移入して、なりきってしまう人なのだろうか?

快盗ルビイ 表現主義的演出
  ドイツ表現主義のような描写の表れる一場面
 『快盗ルビイ』には映画の嘘を支える本当が欠けている。その結果、シナリオの磨き上げは不十分で、演出には狙いがないかのように見えてしまう。描かれる内容には起伏がなく、緊張や弛緩もない。つまり退屈だ。もしかしたらバカバカしくて最後まで見ていられないという人も多いのかもしれない。
 だが、一方で個性的で面白い表現のある映画であり、特に主演二人の演技を含め作品世界の造形はとても魅力的だ。多少の欠点があるからといってそれらの美点が消え去る訳ではない。『快盗ルビイ』が作り物の世界に魅力を感じさせる楽しい映画であるというのは本当のことだ。

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