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『キャビン』 B級映画のパロディ

監督 ドリュー・ゴダード 2012年

 B級ホラーの体裁をとったコメディ映画。そして映画についての映画でもある。その着想が面白い。観客の視点をパロディ化し作品に内在化しているのが、この映画の眼目だ。それが観客という立場を客観的に考えさせてくれたりもする。それでいてちゃんと楽しめる映画になっていて、その点では作り手の確かな手腕を感じさせる映画でもある。

キャビン 孤立した若者たちが次々と襲われていくB級ホラーの定番通りの展開、それをモニター越しに操作しながら、そのシナリオを用意し演出する制作者たちがコミカルに描き出されていく。彼らと観客の関係はまさにホラー映画の作り手と観客そのままだ。客観化されてしまった恐怖の喜劇性、作り手の顕在化など、ホラー映画が好きな観客ほど笑えるだろう。観客の想像通りの、いや、かなり誇張した舞台裏を見せてくれるのが楽しい。

 人里離れたところにある山小屋、青春を謳歌する若い男女という設定、ちょうど1時間半から2時間で殺していくのに丁度いいように調整されている人数。性に奔放な女、屈強そうな男、頭のいい男、間抜け、処女のヒロインといった定番のキャラクターが作られていく。何もかもが陳腐で型通りだ。その金太郎飴のように退屈な要素を必死に作り出そうとしている人々の奮闘が可笑しい。彼らはもちろん登場人物が一箇所に集まる状況が大嫌いだし、なんとかしてセックスシーンを入れようと努力するのだ。一方で処女は助かってもいいのでかなり適当な扱いだ。これはなかなか新鮮な見解ではないか。ヒロインの描写はあまり工夫やアイデアが必要なく、楽に演出できるらしい。これら作り手や観客のパロディとなっている描写が実に面白い。
 彼らは人間が残虐に殺される度に喜び、貞子そっくりの幽霊が9歳の少女たちにあっさり蛙に変えられてしまうのには大いに失望する。まったくホラー映画を見る我々観客の心理そのままではないか。中でも、登場人物を隔離した状況に置いておくための作者の神の手は、観客に隠されるどころか不可視の壁としてあからさまに映像化されていて、実際に登場人物の一人はその壁にぶつかって死んでしまうのだ。端的にこの映画の性質を示した身も蓋もない名シーンだ。
 『キューブ』など数々のホラー映画のパロディ、場違いな有名女優の登場、デタラメな展開によって大掛かりな殺戮ショーになるクライマックスはお祭りのような楽しさだ。もちろんここまで見てきたなら観客はその悪趣味な残虐さを大いに笑うべきだろう。

キャビン 作品のあらゆる設定、ストーリー、人物描写など、何もかもが荒唐無稽で、リアリティ皆無な映画だ。ただセックスと暴力とグロテスクな見世物があり扇情的なだけ。そういうB級映画を実践して見せているのだから当然そうなっている。…いや当然ではない。実に巧みに、だ。この映画で描かれる人の死に現実の重みはまったく存在しないし、ただただ気楽に楽しみ、それを見ている自分自身を笑うための映画なのだ。そしてホラー映画とその観客という作品の外部を内在化して見せてくれるのがこの映画の最大の魅力だ。

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