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『トゥルーマン・ショー』 世界は舞台、人は役者

監督 ピーター・ウィアー 1998年 アメリカ映画

 閉じた虚構の世界に生きる男が自由と他者を求めて現実の世界を目指す姿を描いた映画だ。その物語自体とても面白い。ピーター・ウィアーの持ち味である叙情性や湿度の高い映像の美しさもそれをより高めている。そこにさらに他者の人生を娯楽の手段とする人々などブラックユーモアとしての側面、虚構の世界やその現実との関係を描いたメタ・フィクション的な性質もある。それぞれの要素が堅実に描かれていて観客によってどの性質が前景化してもおかしくない。
 また観客に明示した上で虚構の世界を描いているのがこの映画の特徴だ。この種の映画は通常、観客が登場人物とともに物語の進展に従って世界が虚構であることを発見していく形式を採るものだ。原作?の「時は乱れて」ではそれがスリリングで重要な魅力となっているし、ほぼ同時期のアメリカ映画『マトリックス』や『ダーク・シティ』などがそうであるように。しかし『トゥルーマン・ショー』は最初から舞台裏を見せてしまうことでコメディとしての客観性を確保し、現実と虚構の映画であるより、自由と他者の映画となることを選んだようだ。

トゥルーマン・ショー 他者や世界につきまとう浅薄さと偽物感、そこからの脱出と唯一本物の他者であったシルビィアを求めての足掻き、そしてついに虚構と現実の境界に突き当たり現実へと脱出する。そのトゥルーマンの物語はハッピーエンドで終わる。心動かされる物語だ。
 他方で映画は劇中、彼の人生を手段として利用するTV局の人間やトゥルーマンの人生を消費し尽くして次の娯楽を求める人々を描いていて皮肉な諷刺劇ともなっている。

 そしてもう一つのモチーフ、虚構の世界とそこに生きる唯一人本物の人間という設定は、SFの一つの型だが、映画という現実的な表現形式で描かれるとやはり面白い。元々の原案と言われる「時は乱れて」のフィリップ・K・ディックの魅力でもあるが、ディック原作を明示した他のアメリカ映画よりずっとうまく原作の魅力を映画にしている。一つの街とそこに生きる人々が全て作り物という非現実的な作品世界の設定が、我々の生きる現実世界の原理を喩えていて、主観的に知ることのできる唯一の実体としての自己と、客観的にしか知り得ない他者や世界という現実の関係をそのまま反映している。我々観客だって他者や世界が偽物でないという根拠など持ってはいないのだ。

 トゥルーマン以外の人々が所定の位置に静止して現実の開演を待つ様子、エレベーターの奥にある ”本物” の現実、規則的に通り過ぎる特定の人と車。まさに「世界は舞台、人は役者」だ。

 我々観客がふとした瞬間、現実に感じる違和感と虚構感が再現されていて魅力的なのだが、更にその裏側にはトゥルーマンの感じる違和と疑惑が精神に異常を来している人のそれであるように見える不気味さもある。これも現実の世界と我々との関係そのままだ。もし主観と世界がその関係に齟齬を来したなら自分がおかしいのか、世界の側がおかしいのか世界内の存在者である我々の立場では証明のしようがないではないか。作品世界は特殊に見えてその実、現実を鏡のように反映している。


トゥルーマン・ショー 描写においてもあり得ないスピードで昇る太陽、大きすぎる月、’50年代の事務所に置かれているブラウン管式モニターのパソコンなど、作為を孕んだ不自然な世界が魅力たっぷりに描かれる。ここでの主役は登場人物よりもこの虚構の世界だ。中でも特に最後に作り物の姿を曝け出す世界の果てとそこにある階段、更にその先の暗闇の描写は象徴的で、映像そのものがこの映画の内実を代替する提喩となっている。

 『トゥルーマン・ショー』は現実と虚構の関係という、少し一般性に欠けるモチーフを持った映画でありつつ、前景化されるのは自由と他者を求める一人の人間の真剣な希求の物語であり、とても興味深く、同時に見やすく、気軽に楽しめる優れた娯楽映画となっている。

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